食肉衛生検査センターだより(畜産技術ひょうご)103号 発行:2011年9月5日)
題名 :新宮食肉センターにおける牛と畜検査について
筆者 :兵庫県食肉衛生検査センター西播磨食肉衛生検査所
 担当課長補佐 柴折 浩幸
 西播磨食肉衛生検査所は、県西部のたつの市にある新宮食肉センターを所管し、大動物と小動物両方の食肉処理施設においてと畜検査を実施している。
 今回、平成20年〜22年度の牛(とくを除く)のと畜検査成績についてまとめたので、その概要を紹介する。
1.と畜頭数について
 近年、多くのと畜場ではと畜頭数が減少傾向にあるが、当センターの牛と畜頭数はここ3年間微増しており、平成22年度は20年度より454頭増加し5,888頭であった(図1)。
 搬入状況別にみると、病畜の搬入が増加しており、22年度の病畜搬入は733頭と全体の12.3%を占めており、そのうち半数以上の371頭が起立不能牛であった。
2.種別搬入頭数について
 種別搬入頭数には当センターの特徴が最も出ており、搬入牛の50%以上(昨年度実績では57.2%)を乳用牛の雌(いわゆる乳廃牛)が占めている。また和牛の種雌牛としての供用を終えた牛が多い(図2)。
図2 種別性別頭数
3.産地別搬入頭数について
 搬入牛の生産地では、県内産は少なく、22年度では1,639頭(27.8%)であった。最も多い搬入県は岡山県の1,977頭(33.6%)で、その他の県外からの搬入が2,272頭(38.6%)であった。これは岡山県、香川県、岐阜県などの家畜市場で購入された牛が搬入されることや、家畜商が県外を含め広範囲の生産地から廃用牛を集めているためと思われる(図3)。
4.廃棄原因について
 と畜検査の結果、全部廃棄処分となった頭数は毎年増加しており、22年度は176頭(前年比191%)と急増した。疾病別では牛白血病が最も多く、年々届出数も増加傾向にあり、全国的に蔓延しているものと思われる。昨年は炎症および炎症産物による汚染によっての全部廃棄が増えており、これは病畜の急増、特に起立不能の状態で経過の長い牛が多数いたことによると思われる(表1)。
表1 疾病別全部廃棄頭数
5.抗菌性物質残留を疑う検査保留牛について
 表2は一般畜として搬入された牛の頚部や臀部等に注射痕を認め、明らかに何らかの治療歴があったと判断したものと、病畜として診断書が添付されていても明確に治療暦の記載のないものの頭数を表している。これらを確認した場合および代謝機能が著しく落ちていると思われる病畜は、抗菌性物質の残留等を疑い、保留して精密検査を実施している。なお、これらについてはと畜業者を通じ、生産者や治療を行った獣医師に注意喚起を行っている。その結果、22年度には一般畜、病畜ともに例年に比べて格段に増加していたものが、今年度は徐々にではあるが減りつつある。
表2 抗菌性物質残留を疑う検査保留頭数
おわりに
 過去にも様々な事件や事故により消費者の持つ食肉への安全性や信頼を揺るがす事態があったが、今回の生食用食肉による食中毒事例やセシウム汚染牛肉問題により、牛肉離れと食肉に対する安全性への関心が高まっている。今後はいかにして失った信頼を取り戻すかが急務であり、生産者サイドとなお一層の協力の下、データ還元や情報の共有等、あらゆる努力が必要であると考える。
 更に消費者への安全・安心な食肉の提供を目指して、と畜検査員はこれからも、獣医師としての知識や技術について、個人ならびに組織のスキルアップを図るための努力と研鑽を日々積み重ねなければならない。
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