衛生情報 (畜産技術ひょうご116号 発行:2014年10月29日)
題名:管内で発生の多い鶏の細菌性疾病について
筆者:姫路家畜保健衛生所 病性鑑定課
瀧 麻香
はじめに
 現在、家禽の伝染性疾病として最も重要視されているのは高病原性鳥インフルエンザであり、原因となるウイルスの伝播力の強さ及び致死性の高さから、発生予防・まん延防止のための防疫体制の構築がすすめられている。その一方で、養鶏現場において発生頻度が高いのは、鶏大腸菌症や鶏壊死性腸炎といった細菌性疾病である。これらの疾病は様々な臨床症状を示すが、急性もしくは重度の場合には死亡羽数が増加し、経済的被害は甚大となる。当所管内においては、平成26年4月〜8月の間に鶏大腸菌症が3件(症例@AB)、鶏壊死性腸炎(症例CD)が2件発生したため、その概要について報告する。
1.鶏大腸菌症について
 本症は鶏病原性大腸菌を原因とする疾病であるが、健康な鶏は発病せず、感染性あるいは環境性のストレスがかかったときに、呼吸器感染から敗血症を起こして発病する。急性敗血症型、亜急性漿膜炎型、慢性肝炎・脾炎・腸炎型などさまざまな病型を示すことが知られている。本症に特徴的な病変は、肉眼的には心膜炎、肝被膜炎、組織学的には線維素性化膿性漿膜炎である。
 症例@については心膜炎、症例A、Bについては肝被膜炎がみられ(図1-A)、組織学的には、多量の線維素の析出を特徴とする線維素性炎(図1-B,C)や化膿性線維素性炎が認められた。また、全ての症例において、病変部にグラム陰性桿菌(大腸菌)が多数見られた(図1-D)。これらの症例は全て夏季に発生しており、鶏舎内の温度が通常よりも高くなっていたことから、暑熱ストレスが発病誘因の一つであった可能性が考えられる。
図1 鶏大腸菌症の肉眼及び病理組織写真(症例A)
A:肝被膜炎がみられる。
B,C:肝臓HE染色。被膜に線維素が析出し、細菌塊を認める。
D:肝臓HE染色。析出した線維素中に多数のグラム陰性菌を認める。
2.鶏壊死性腸炎について
 本症はClostridium perfringens A型菌、C型菌を原因とする疾病で、コクシジウムの感染により発病が誘発されることが知られている。肉眼的には、小腸の著しい膨隆を特徴とし、組織学的には十二指腸、空腸、回腸における壊死性、線維素性の炎症が認められる。
 症例C、Dともに小腸の著しい膨隆を認め(図2-A)、その内容物からクロストリジウムが多量に分離された。また、組織学的には腸絨毛上部が広範囲に壊死しており、脱落した上皮や線維素などからなる偽膜が形成され(図2-B)、病変部にはグラム陽性桿菌が多数認められた(図2-C)。さらに2症例ともに、粘膜上皮や腸管腔内に多数のコクシジウムオーシストがみられたことから(図2-D)、コクシジウムの寄生が発病に関与したと考えられる。
図2 鶏壊死性腸炎の肉眼及び病理組織写真(症例D)
A:小腸が著しく膨驍オている。
B:空腸HE染色。絨毛上部が広範囲に壊死し、偽膜が形成されている。
C:空腸グラム染色。病変部に多数のグラム陽性菌を認める。
D:空腸HE染色。粘膜上皮及び腸管腔内に多数のコクシジウムオーシストを認める(矢印)。
おわりに
 今回紹介した2つの疾病は、家禽の監視伝染病には含まれていないが、発生頻度や重篤化した際の死亡率の高さを鑑みると、発生予防に努めることは非常に重要である。管内で発生した症例については、飼養衛生管理の改善、適切な抗生物質の投与などの対策により沈静化された。また、これらの疾病の発病を誘発するものが、環境感染要因の悪化による免疫力の低下であるため、日々の飼養管理の改善が、発生予防において非常に重要であると考えられる。
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