衛生情報 (畜産技術ひょうご117号 発行:2015年2月9日)
題名:但馬牛子牛の発育不良原因調査(最近の病性鑑定事例から)
筆者:淡路家畜保健衛生所 病性鑑定課
課長補佐 亀山 衛
はじめに
 但馬牛子牛は、ホルスタイン種や他県産和牛に比べて、一般的に生時体重が小さい子牛が多い。そのため、「母牛から免疫力を獲得する初乳給与」や、栄養分を効率良く吸収する「はら(第一胃)作り」が重要である。しかし、不幸にも下痢や肺炎が完治せず慢性化したり、不適切な飼料給与等が原因で発育が遅延する子牛も少なくない。当所では、臨床獣医師等からの依頼に基づき、予後不良と診断された子牛の病性鑑定を実施して原因を調査し、その対応方法を臨床獣医師や生産農家に提供している。今回、最近の病性鑑定事例を中心に、現在問題となっている発育不良原因を紹介する。
1.病性鑑定事例
(1)調査方法
 H24〜25年度に病性鑑定を実施した生後9か月齢以下の和子牛122頭の精密検査成績を集計した。精密検査は病理学検査(解剖、組織検査)、血液生化学検査、必要に応じて病原検索(細菌、ウイルス等)を行った。また、H24年4〜12月期の42例(雄20例、雌22例)は、第一胃の絨毛の発達度合いと発育不良原因との関連を調査分析した。
(2)調査対象牛
 病性鑑定実施時の月齢は、生後1か月未満(25例:20.5%)が最も多く、次いで7か月以上8か月未満(17例:13.9%)が多かった。病性鑑定時の稟告(畜主から聴取した症状:「」書きとし、診断結果とは区別)では、「下痢」(36例:29.5%)が最も多く、次いで「肺炎」(19例:15.6%)、「発育不良」(12例:9.8%)と続いた(図1)。
図1 調査対象牛の概要(全 122症例)
 症例数の多い上位6稟告で、病性鑑定時の月齢を見ると、症状の進行が緩慢で発育不良が顕著になるのが遅い「下痢」は6か月以降が多く、子牛の育成期全般で重症化しやすい「肺炎」は全ての月齢で多く、「虚弱」「跛行」「神経症状」は生後直ぐに重篤な症状が発見されるため1か月以内が多かった(図2)。
図2 上位6稟告の月齢分布
(3)上位6稟告の病変詳細(表1)
表1 上位6稟告の病変詳細
 「下痢」では、胃腸炎が多く確認されたが、原因病原体が確認できない症例が多かった。ロープの誤食や第一胃絨毛の発達が悪い症例も多く確認された(図3)。胃腸以外では化膿性肺炎が多く確認され、下痢による栄養状態の悪化に伴い肺炎を併発したものと考えられた。「肺炎」では、化膿性肺炎の病変が多く確認された他、第一胃絨毛の発達不全も多く確認された。発咳等の呼吸器症状以外に斜頚等が確認された症例では、マイコプラズマ感染による内耳炎から脳炎に波及した症例も確認された(図4)。「発育不良」では「下痢」と同様に、第一胃絨毛の発達不全やロープ誤食が多く確認された。また、奇形(心房中隔欠損[7.5か月]、大腸の低形成[7.5か月])が原因であった症例も2例あった。「虚弱」では、心奇形の1例を除いては、化膿性肺炎、第一胃絨毛の発達不全、ロープ誤食等の後天的な病変が多数見られた。「跛行」では股関節や前肢関節に病変が見られる症例が多く確認された(図5)。しかしながら、四肢に異常は確認されず、心奇形(心房中隔欠損)や腎炎・第四胃潰瘍だけが確認される症例も見られた。「神経症状」では、臍帯炎に起因する敗血症から派生した化膿性脳脊髄炎や内水頭症等が見られた(図6)。
図3 慢性下痢(ロープ誤食)
図4 マイコプラズマ感染症
図5 股関節形成不全
図6 神経症状
 病性鑑定により発育不良と診断した症例は74例(61%)あり、「下痢」で(33例:92%)、「肺炎」(16例:84%)、「発育不良」(11例:92%)、「虚弱」(4例:40%)、「跛行」(2例:22%)、「神経症状」(2例:25%)と「下痢」「肺炎」で多く、これらの症例では第一胃絨毛の発達不全も多く確認された。
2.発育不良と絨毛発達不全の関連分析
 H24年4月〜12月に精密検査を行った42例の内、外観及び体高(但馬牛標準発育曲線)から明らかな発育不良と評価されたものは27例(64%)であった。異常内容は肺炎12例(29%)、下痢11例(26%)、虚弱5例(11%)、奇形4例(10%)、事故4例(10%)、泌尿器障害3例(7%)、他3例(7%)であった。絨毛発達の悪い症例(絨毛発達不全)は12例(29%)で、色調では茶褐色〜暗黒色を呈するものもあり、形状ではごく短い棍棒状を呈する絨毛、極めて矮小で密生する絨毛、いびつで岩石様に硬化した絨毛等が見られた(図7)。次に、発育不良と絨毛発達不全の関連をみるために、それぞれの有無でAからDの4グループに分類した。
図7 第一胃絨毛の発達不全
 発育不良(27例:B及びD)の要因では、これまでの報告と同様に下痢10例(37%)、肺炎9例(33%)、虚弱4例(15%)の関与が多かった。一方、絨毛発達不全(12例:C及びD)の要因では、肺炎8例(67%)の関与が多かった(図8)。
図8 発育不良と絨毛発達不全の関連分析
 一般に第一胃絨毛の発達は、生後初期(7週齢まで)ではスターター(人工乳)やインスリン様成長因子(成長に関連するホルモンの一種)に大きく影響を受けるが、その後は酪酸(濃厚飼料が消化されてできる物質)の影響を大きく受けると言われている。
 肺炎が重症化すると、満足な呼吸ができないことから、飼料を十分に食べられない。このため、絨毛の発達を促す濃厚飼料が摂取できず、絨毛が発達しないことから発育の回復が難しいと考えられる。
 一方、下痢症や軽度な肺炎罹患牛等では発育の遅延はあるが、絨毛の発達に最低限必要な飼料は摂取できていると考えられ、下痢や肺炎の治療が功を奏せば、正常発育へ復帰できると考えられる。
 従って、子牛の育成期は肺炎の予防対策を徹底し、特に肺炎の重度化、慢性化を防ぐことが重要である。
おわりに
 子牛を「すこやか」に「すくすく」と育てるには、「はら作り」と「疾病予防」が重要である。特に、子牛疾病の二大病因である「下痢症」「肺炎」の中でも、「肺炎」を予防、早期治療することは第一胃発達の観点からも重要と考えられる。
 今後も発育不良原因調査を継続して、症例数を蓄積する事で、発育不良の原因の解明が進み、飼養管理技術の向上に役立ちたい。 
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