食肉衛生検査センターだより(畜産技術ひょうご)117号 発行:2015年2月9日)
題名 :小学生等を対象にした食肉啓発講習会の実施について
筆者 :兵庫県食肉衛生検査センター 但馬食肉衛生検査所
主査 源田 規子
はじめに
 平成23年に食肉を原因とする複数県にまたがる大規模な食中毒が発生し、これを機に生食用食肉に関する基準が定められるなど、食肉を取り巻く環境はここ数年で大きく変化している。(公財)日本食肉消費総合センターが平成25年10月に行った消費動向調査においては、牛肉に不安を感じると答えた一般消費者は37.5%で、不安を感じないと答えた28.2%を上回っており、いずれにしても消費者の食肉に関する意識の高さがうかがえる。兵庫県は毎年度「兵庫県食品衛生監視指導計画」を策定し、その中で、『「出前講座」による県民等からの要請に応じた食の安全安心に関する知識の普及』も施策の一つとして掲げ、関係者相互間の情報及び意見の交換に努めている。今回、但馬食肉衛生検査所(以下当所)が新たに取り組んだ啓発講習会について紹介する。
1.昨年度までの実施状況
 当所は疾病検査、食肉中の残留抗菌性物質等対策、そして微生物汚染防止対策を業務としているが、他方、管内の健康福祉事務所(保健所)等からの依頼を受け、一般消費者に対する講習会も行っており、消費者への食肉に関する啓発にも努めている。昨年度までの3年間(平成23年度〜平成25年度)に11回、計185人に対して講習会を実施しているが、いずれも対象者は高校生以上であった。内容は食肉処理、食肉検査、及び食肉に関わる食中毒予防についてで、事前に依頼者と打ち合わせを行い、食肉処理、食肉検査ともに可能な限り実際の現場を写真やDVDで見てもらうようにした。受講者の反応は、「お肉になる工程がわかってよかった」「食材に感謝しないといけないと感じた」など、おおむね好意的ではあったが、中には「グロテスクだった」「牛がお肉になるのはかわいそうだと思った」と、食肉処理に関してマイナスイメージを持つ人も少なからずいた。
2.今年度の新たな取組について
(1)小学校での講習会
 一般の啓発講習会を通じて私たち検査員が感じたことは、もっと小さい時に食肉に関わることを知っていれば、食行動や食肉処理への認識も変わるのではないかということであった。そこで小学生を対象にした講習会ができないかと働きかけたところ、養父市立養父小学校で10月に6年生、11月に1、2年生を対象にした講習会を行う機会を得た。事前の打ち合わせで、6年生の講習では地域の学習も兼ねたものにしてほしいとの学校側からの希望があったため、地元の特産品である但馬牛の説明を入れ、それらがどのように育てられてお肉になるかや、食中毒の予防などをクイズを交えながら行った。座学だけではなく、実習として手洗いチェッカー(蛍光ローションを汚れに見立て手に塗布した後手洗いし、ブラックライトをあて蛍光の残り具合で適切に手洗いが行われたかを確認するもの)を用いた手洗い実習を行った。1、2年生の講習会は豊岡健康福祉事務所(現動物愛護センター但馬支所)主催の動物ふれあい事業と合同で同様の内容を行った。今回は学校側の希望もあり、食肉処理についてはイラストで説明し、実際の写真は用いなかった。
写真1 養父市立養父小学校での講習風景(1、2年生)
(2)食の安全安心普及啓発用紙芝居を用いた講習会
 今年度、県生活衛生課が、幼児期からの衛生教育教材として、食中毒予防の3原則(食中毒菌を、つけない・増やさない・やっつける)について、2種類の啓発紙芝居を作成した。内容は、ひとつは手洗いの大切さについて、もうひとつは食品の適切な保存と十分な加熱調理についてである。今回機会を得て、11月に朝来市立東河こども園で紙芝居講習会を実施した。
写真2 朝来市立東河こども園での講習風景
(3)2か所での講習会を通して
 2か所とも、講習会では子供達の反応もよかったが、6年生の事後アンケートにて自由形式で書いてもらった感想では、「牛がどう育っていくのかわかった」「牛に種類があるのがわかってよかった」「どのようにお肉になるのかわかった」等、但馬牛の産地に住んでいても牛のことはなかなか知られていないことがうかがえた。一番印象に残った内容については手洗い実習で、実際に自分で体験するほうが印象に残りやすいようである。内容については、と体や枝肉は学校側の希望もありイラストで説明したが、イラストについての抵抗はないようであった。
おわりに
 お肉は、農家さんが大切に育ててくださった「牛」という生き物が形を変えたものであり、その変化には「命をいただく」という行為を必ず伴わなければならない。今回初めて小学生等を対象にした講習会に取り組んだが、産業動物である以上、「命をいただく」ことは致し方ないとはいえ、発達途上の子供の心に負担をかけずに食肉処理を正しく理解してもらうことについては、まだまだ改善不足な点もあり、今後検討すべき課題だと考えた。これからも食育に関わり、少しでも子供達の食肉への理解や食中毒の低減に努めていきたい。
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