特集記事
題名 牛肉生産の今後の展開
筆者 兵庫県立中央農業技術センター 家畜部 主任研究員
岡 章生
 
 現在の牛肉市場での枝肉単価は脂肪交雑に大きく依存しており、2000年に調査した兵庫県下の黒毛和種の脂肪交雑(BMS No.)と枝肉単価との関係をみてみると、BMS No.が1段階違うと単価が100円〜数百円違っている(図1)。肥育農家が収益を増やすためには、枝肉重量も重要であるが、脂肪交雑を少しでも高める必要があり、そのために育種改良、飼養技術の改善が行われてきた。しかし、最近の牛肉市場を見ていると過度に脂肪交雑が偏重されている感がある。公的機関で測定した胸最長筋中の粗脂肪含量と脂肪交雑の関係を見てみると、1988〜1991年にと畜したものではBMS No.が平均8.5であった胸最長筋の粗脂肪含量は26.8%であった。しかし、2000年ではBMS No.が8.0の粗脂肪含量は40.2%となっている()。 同様にBMS No.4は1988〜1991年では13.4%であったが、1999年では20.1%と高くなっている。これらのデータはわずかな頭数であるので全体を正確に反映しているとは思われないが、各BMSNo.の粗脂肪含量は10年前に比べ高くなっていると考えられる。現在の5等級の枝肉ではロース芯には40%以上の脂肪が含まれていると予想されるが、消費者がこのような脂肪の多い牛肉を望んでいるかどうか疑問である。最近、消費者の意識調査*を行った結果では、牛肉が大好きな人でも粗脂肪含量が30%程度のものを、それほど好きでない人は20%程度のものを好んでいる。また、官能評価ではうま味は脂肪交雑量が多いものほど大きいが、30%を超えると限度が現れるという結果が出ている。したがって筋肉内の粗脂肪含量は30%までで十分であると思われ、今後の牛肉生産は脂肪交雑よりも美味しさに重点を置くべきではないかと考えられる。
 食肉の味にはアミノ酸組成、核酸関連物質、脂肪酸組成等が関与している。特に牛肉では脂肪酸組成の中でオレイン酸などのモノ不飽和脂肪酸割合が高いと美味しいと言われている。牛肉脂肪の脂肪酸組成は品種、性、肥育期間、給与飼料によって影響される。黒毛和種は他の品種に比べモノ不飽和脂肪酸割合が高いことが報告されているが、筆者らは黒毛和種の中でも種雄牛によって脂肪酸組成が異なるかどうかを検討した。近畿中国地方の産肉能力間接検定肥育牛の脂肪酸組成を分析したところ、モノ不飽和脂肪酸割合は種雄牛によって大きく異なっていた(図2)。最も高いものでは54.7%、最も低いものでは47.8%であった。将来、モノ不飽和脂肪酸割合の低い黒毛和種が増加したならば和牛肉の美味しさがなくなる可能性もある。今後の黒毛和種の育種改良には脂肪酸組成等の味に関する項目も加える必要があると考えられる。
 また、肥育農家が飼養技術の改善によって美味しい牛肉を生産したとしてもそれが評価されなければ枝肉単価は上がらない。肉の理化学検査、脂肪酸組成、アミノ酸組成の分析には時間と経費がかかり現状の分析方法では流通している牛肉を分析し評価することは不可能である。流通段階で簡易に肉質が分析できる方法の開発が必要であり、当センターでは1つの試みとして光ファイバー分光測光装置を用いた牛肉脂肪の評価方法を検討している。近い将来、牛肉の評価が美味しさによって決定されるようになり、美味しい但馬牛の牛肉がたくさん生産され、それらが高く評価される日が来ることを期待している。
 
*東京農大・山口教授、近畿中国四国農業試験研究推進会議平成13年度問題別研究会

 
 
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