家畜診療所だより(畜産技術ひょうご79号 発行:2005年12月28日)
題名 :紙おむつを用いた乳牛の飛節周囲炎療法
筆者 :兵庫県農業共済組合連合会 淡路基幹家畜診療所
主幹 野口 等
はじめに
 運動器疾患の中で飛節周囲炎(いわゆる関節炎)は、一般的に起伏時の飛節への圧迫や挫傷等が誘引となり舎飼い経産牛に多発し、治療しても再発を繰り返し、常に乳牛の死廃事故原因の第1位を占めている。また、乳量の減少だけでなく、飼料の摂取量や繁殖にも悪影響を及ぼし、乳牛の寿命を短縮し、酪農経営にとって大きな経済的損失をもたらしている。
 そこで、紙おむつが牛の飛節の形状にフィットすることに着目し、皮膚の被覆と保護、二次感染の防止、膿汁や滲出液の吸収を目的として、乳牛の飛節周囲炎療法に応用しその効果について報告する。
1.処置方法
(1)準備品
 紙おむつは、成人用パンツ形式を用いる(長時間用M〜Lサイズ)。紙おむつ固定用のテーピングテープは、非伸縮タイプ用い、固定補助として特大の洗濯バサミ(大型のクリップでも可)を準備する。
(2)紙おむつの処置方法のポイント
 図1に処置方法の流れを示した。まず紙おむつのウエスト部分の一端をやぶる。次に飛節に被せ、少し前方に紙おむつを引き、飛節に巻きつけ、洗濯バサミで仮止めする。次にテーピングテープでまずアキレス腱部分を3回巻いて固定し、洗濯バサミをはずし、管部分も同様に固定し、もう一度アキレス腱部を固定し完成させる。
 紙おむつは、通常10日〜14日間隔で交換するが、膿汁の排泄が多い場合や飛節外側が潰瘍状の症例では7日間隔で交換する。
図1 処置方法
2.材料および方法
 試験期間および供試牛は、2003年4月から2004年11月までの20か月間に飛節周囲炎にて受診したホルスタイン種乳牛103頭115肢に紙おむつ療法を実施し、飛節周囲の観察と症状スコアの算出を行った。 
飛節周囲の観察と計測は、初診時、10日後、20日後および30日後の計4回メジャーで飛節周囲を計測した。
 症状スコアは、起伏(0:正常、1:やや困難、2:困難、3:介助が必要)、負重(0:正常、1:嫌う、2:困難、3:不能)、疼痛(0:なし、1:軽度、2:中等度、3:重度)の3症状の合計値とし、初診時、10日後、20日後および30日後に判定した。
3.結果
 処置後、ほとんどの症例で飛節の腫脹は著しく軽減した。また浸出液のみられた症例では、紙おむつにこれが付着するものの、おむつははずれることはなく、飛節は被覆されていた。以下代表的な症例の推移を示した。
 症例1(図2)は、飛節周囲の化膿症例であった。初診時、飛節周囲に膿瘍が形成され、一部は排膿が見られた。飛節周囲は60cm 症状スコア4であった。紙おむつ療法によって滲出液と膿汁がパッド内に吸収され、30日後飛節周囲は46cm、症状スコア0と治癒した。
 症例2(図3)は、飛節周囲の褥創例に適用したものである。初診時、飛節周囲は褥創が著しく起立困難で、飛節周囲は51cm、症状スコア8であった。紙おむつ療法によって飛節周囲の皮膚の隆起が観察され、30日後には、飛節周囲の褥創は著しく縮小し、飛節周囲は50cm、症状スコア2と回復し、46日後に治癒した。
 今回実施した115肢について飛節周囲長さの推移を計測した(図4)。飛節周囲長さ(平均値±標準偏差)は、初診時53.1±4.5cm、10日後49.9±4.0cm、20日後49.0±3.6cm、30日後48.4±3.5cmと次第に短縮し、初診時と10日後の間には有意な縮小が認められた(P<0.01)。
 115肢について症状スコアの推移を算出した(図5)。症状スコア(平均値±標準偏差)は、初診時4.2±2.0、10日後2.7±2.3、20日後1.5±2.0および30日後1.5±2.3と改善され、初診時と10日後の間には有意な改善が認められた(P<0.01)。
 症例の転帰は、治癒86/103頭(83.5%)、廃用17/103頭(16.5%)であり、転帰までの日数は治癒例では21〜106日(平均37.0日)、廃用例では3〜100日(平均27.6日)であった。なお、転帰までの紙おむつの交換回数は、治癒例では0〜5回(平均1.8回)、廃用例では0〜7回(平均1.6回)であった。
図2 症例1 
図3 症例2 
図4 飛節周囲長さの推移 
図5 症状スコアの推移 
4.まとめ
 紙おむつ療法は、皮膚を被覆・保護し、2次感染の防止と滲出液や膿汁の吸収に優れており、さらに表面のフィルムによって適度な湿潤環境となり自然治癒力を促進し治療効果が高まったと考えられた。また、抗生物質の使用や患部の消毒も不要で飛節周囲炎に有効性が高く、安価で処置方法が簡単であり、牛に対して優しい療法であると考える。
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