食肉衛生検査センターだより(畜産技術ひょうご)91号 発行:2008年10月1日)
題名 :大規模食鳥処理場におけるカンピロバクター薬物耐性調査
筆者 :兵庫県食肉衛生検査センター
但馬食肉衛生検査所 金森 恭子
はじめに
 カンピロバクターは鶏肉から高頻度の分離が報告されており、食中毒の原因菌として問題となっている。また、近年カンピロバクターの薬剤耐性化、特にキノロン系抗生物質に対する耐性菌の増加が報告されている。
 そこで、管内の大規模食鳥処理場において、鶏肉からカンピロバクターの分離・薬剤耐性調査を行い、汚染状況および薬剤耐性の動向を把握した。
1.材料および検査方法
 平成19年3月〜8月、管内の大規模食鳥処理場に搬入された鶏109検体において、各処理段階のと体表面、部分肉を検査材料として用いた。プレストン培地で増菌、CCDAで選択培養を行った後、馬尿酸塩加水分解試験、ナリジクス酸(NA)セファロシン(CET)感受性試験、PCRで同定を行った。
 薬剤感受性試験では、NA、シプロフロキサシン(CPFX)、ノルフロキサシン(NFLX)、オフロキサシン(OFLX)、エリスロマイシン(EM)、テトラサイクリン(TC)、クロラムフェニコール(CP)についてディスク法で行った。
 また同一処理場から分離された株について、パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を行った。制限酵素SmaT、マーカーLambda Ladder、泳動6V、4〜50秒、22時間、14℃の条件で行った。
2.分離・同定結果
 109検体の内38検体(34.9%)からカンピロバクターが検出された(表1)。検出されたカンピロバクターはすべてCampylobacter jejuniであった。
3.薬剤感受性試験結果
 今回検出された38検体すべて何らかの抗生物質に対して耐性を示した。NAは31検体(81.6%)、CPFXは30検体(78.9%)、NFLXは29検体(76.3%)、OFLXは29検体(76.3%)、TCは11検体(28.9%)であった。EM耐性を示す菌株は今回検出されなかったが、CP耐性はすべての菌株において認められた(表2)。
 それぞれの菌株の耐性パターンを比較すると、最も多いパターンとしてNA・CPFX、NFLX、OFLX、CP5剤耐性パターンが検出された(18株、47.3%)。またNA・CPFX、NFLX、OFLX、CP・TC6剤耐性パターンも検出されており(11株、28.9%)、数種類の抗生物質に対して耐性をもった菌が多く検出された(表3)。
 同じ処理場から検出された株のPFGEによる遺伝子解析を行った結果、すべての耐性菌が同じ型であった()。
4.考察
 今回当所が管轄する地域の大規模食鳥処理場に搬入された食鳥と体表面、および部分肉から34.9%のカンピロバクターが検出された。カンピロバクターに汚染された鶏肉が食中毒の原因の一つとなっていることを裏付けていると考えられる。食中毒予防として、鶏肉の十分な加熱処理等の衛生指導が消費者、営業者に対して必要である。
 薬剤感受性試験では、NAなどのオールドキノロン系抗生物質だけではなく、CPFX、NFLX、OFLXなどのニューキノロン系の抗生物質に対しても耐性を示す株が多く検出された。キノロン系抗生物質は従来カンピロバクターに対して有効であり、ヒトのカンピロバクター腸炎の第1次選択薬として用いられている。キノロン系薬剤に耐性のあるカンピロバクターが鶏肉からヒトへ感染すると医療現場にも影響を与えることから、今後の動向に注視する必要がある。
 EMもキノロン系と同様、カンピロバクターに対して使用される抗生物質であるが、今回は検出されなかった。
 TC系薬剤は成長促進等の理由から鶏用飼料に添加が認められている抗生物質である。今回キノロン系と比較すると低度ではあったが耐性が認められた。今後も耐性菌の拡大を防ぐため、使用状況などを考える必要性があると思われる。
 CPに対しては今回検出されたカンピロバクター株すべてに耐性が認められており、CP耐性菌の蔓延が明らかとなった。CPは平成10年以降家畜における使用が認められていないにも関わらず今回耐性菌が分離されたことから、耐性機序の解明が必要であると思われる。
 また今回PFGEにより、同じ遺伝子型を持つ菌株が多く分離されたことから、処理場において起源を同じとする耐性菌の蔓延が示唆された。
鶏肉における薬剤耐性菌の増加は人への感染症拡大を招き、医療現場において治療等に多大な影響を及ぼすものと考えられる。食中毒、感染症予防のために今後もカンピロバクターの汚染状況を把握し、農場や処理場の清浄化を進めていくことが重要であると考えられる。
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