食肉衛生検査センターだより(畜産技術ひょうご)96号 発行:2009年12月15日)
題名 :深胸筋変性症について
筆者 :兵庫県食肉衛生検査センター 但馬食肉衛生検査所
大角 元子
はじめに
  深胸筋変性症は、片側性または両側性の深胸筋の白色〜緑色壊死を特徴とし、胸筋のよく発達したブロイラーや七面鳥にみられる。一般的に臨床症状を示さないため、主に解体処理時に発見される。当所管内の食鳥処理場で、食鳥検査終了後の解体処理中に深胸筋(ササミ)に異常が認められたため調べてほしいとの依頼があり、検査を実施した結果、深胸筋変性症と診断した事例に遭遇したので概要を報告する。
1.検査依頼年月日 
  平成21年9月17日
2.検    体 
  ブロイラー(55日齢)の深胸筋
3.検査方法
  上記の異常を呈する深胸筋について、組織片を10%中性ホルマリン液にて固定後、常法によりHE染色標本を作製し、鏡検に供した。
4.肉眼所見(写真1、2)
 深胸筋は両側とも全体的に腫脹しており、表層に出血斑が散在し、また煮肉様に変色している領域が長軸中央部に帯状に存在した。煮肉様病変は深部にまでおよんでいた。

写真1 深胸筋病変部 全体像

写真2 長軸中央部 横断面
5.病理組織学的所見(写真3、4)
 全体的に筋繊維の膨化や硝子様変性を認め、筋繊維間には偽好酸球浸潤を認めた。一部では筋融解や細胞貪食像(矢印)を認めた。

写真3 筋繊維の膨化や硝子様変性、HE

写真4 筋融解(矢印は細胞貪食像)、HE
6.診   断
  肉眼所見、病理学的所見の結果から深胸筋変性症と診断した。
7.まとめ
 深胸筋変性症は翼運動による過度の負荷が原因といわれている。翼運動による過度の負荷が深胸筋に与えられると、そこに流入する血液が急速に増大するため、重量は20%増加し、筋膜圧は5倍に達することが知られている。しかし、深胸筋は胸骨と筋膜に囲まれているために制限を受け、流入血液は停滞し、筋組織は逆に酸素欠乏に陥り、乏血性の壊死がみられる。深胸筋変性症はその進行度合いにより、赤色を呈し出血性の急性炎症領域を認めるカテゴリーT、出血性の限局した領域が存在し繊維化が認められるカテゴリーU、胆汁塩によるヘモグロビンとミオグロビンの破壊により緑色を呈し、より進行した変性や筋萎縮が認められるカテゴリーVに分けられる。
  その初期の病変は24〜48時間で形成されるといわれている。すなわち処理前24時間までの過度の負荷を誘発する要因が防止できれば病変は形成されず食鳥処理には影響がないと考えられる。単独の発生であれば大きな問題ではないが頻繁に発生するようであれば、農場において鶏がストレスを受けて翼運動をすることのないような管理、たとえば動物の侵入を防止する、大きな音をたてないなどの工夫によりその発生を減らすことができると思われる。これら以外の傾向として、オスにおける発生が多く、増体の良い品種に多く、ある特定の遺伝子型の関与などが報告されている。
  当所管内の食鳥処理場では内蔵摘出に解体を伴わない、いわゆる中抜き法が採用されているため、内臓摘出後までを検査する食鳥検査時に本症を検知することは不可能で、精肉のための解体時に処理従事者によって発見される。そのため、衛生管理者を通じて処理従事者に周知させ注意を促すことが必要であると考え指導を行っている。
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