特集記事  (畜産技術ひょうご105号 発行:2012年3月30日)  
題名 −平成23年度農林水産祭天皇杯受賞事例 (株)西垣養鶏場−
地域農産物の6次産業化で過疎化地域の活性化!!
山の中の行列店“たまごかけご飯専門店「但熊(たんくま)」”
筆者 公益社団法人 兵庫県畜産協会
経営支援部 係長 中村 淳司
 兵庫県の採卵養鶏生産者、豊岡市・(株)西垣養鶏場(代表取締役 西垣 源正、写真1)が、栄えある平成23年度農林水産祭の畜産部門の天皇杯を受賞した。当該事例は、平成23年度農林水産祭参加行事である平成22年度全国優良畜産経営管理技術発表会(主催:中央畜産会・全国肉用牛振興基金協会、後援:農林水産省)において最優秀賞となり農林水産大臣賞を受賞し、今回の天皇杯に選ばれた。
 天皇杯は、数ある農林水産関係表彰制度の中で最高位に位置付けられており、過去1年間に国内で農林水産大臣賞を受賞した事例の中から、農産、園芸、畜産、蚕糸・地域特産、林産、水産、むらづくりの7つの部門で、各々1点のみ選ばれる。本年度は、平成22年度8月から平成23年8月までの間に267件の農林水産祭参加表彰行事があり、453点の農林水産大臣賞受賞事例があった。
 本県では過去4回の天皇杯の受賞があったが、畜産部門での受賞は初となる。
 去る平成23年11月23日、新嘗祭(写真2)と併せて明治神宮(東京都渋谷区)で天皇杯受賞式が開催され表彰状と天皇杯が授与された(写真3、4)。
写真1 (株)西垣養鶏場代表の西垣夫妻 写真2 新嘗祭(明治神宮内)
写真3 第50回農林水産祭(明治神宮会館) 写真4 天皇杯の授与式
 当該事例は、飼養羽数約1万羽の小規模養鶏であるが、鶏舎が見える街道沿いに農産物直売所「百笑館(ひゃくしょうかん)」、たまごかけご飯専門店「但熊(たんくま)」、ロールケーキやプリン等のスイーツ専門店「但熊弐番館(たんくまにばんかん)」の3店舗を経営し、過疎化が進む山間の地域でありながら生産する鶏卵をほぼ100%を直売しており、農業の六次産業化に早くから取り組んできた事例である。
 その経営の取組みについて紹介する。
○鶏卵生産を中心とした多角的6次産業を展開する(株)西垣養鶏場
(1)地域の概況
 兵庫県と京都府の県境に位置する県北部の豊岡市但東町にあり、鉄道や有料道路等が無く、周囲を山々に囲まれた地域にある。高齢化率32%の限界集落を含む過疎化地域で、山林・原野が87.6%を占め、耕地はわずか4.7%となっている。農業においては、高齢化とともに農家戸数が減少しており、採卵鶏は当該事例の1戸となっている。
(2)こだわりのブランド鶏卵「クリタマ」
 鶏卵は、40年以上前からブランド鶏卵「クリタマ」として販売している。鶏種は国産鶏「ゴトウモミジ」で、全量赤玉卵を生産している。全て初生ヒナで導入し、餌付けから行い、自家育成する。成鶏になると、1ケージに2羽飼養可能のところ、1羽のみとして飼育スペースにゆとりのある飼養している。飼料は独自で厳選した25種類の単味飼料を自家配合し、高コストでも美味しい卵の味にこだわって生産している。また、農産物直売所「百笑館」で消費者に対して給与飼料のサンプルをすべて展示し情報提供している。
(3)鶏卵の直売事業への取組み
 平成8年に、鶏舎の近くの街道に鶏卵の自動販売機を設置し、鶏卵の直売事業を開始した。直売事業は、順調に伸び、平成11年に鶏舎を新設、飼養規模を約10,000羽として生産体制を拡充した。ブランド鶏卵「クリタマ」は、新鮮で美味しいと評判となり、遠方からも多くの消費者が来るようになった。
(4)「地域の活性化」を目指した農産物直売所「百笑館」
 平成13年、さらに直売事業に注力し、鶏舎のみえる街道沿いに借地し、自家の「鶏卵」と「米」とともに、地域の農産物を販売する農産物直売所を個人経営で立ち上げた。直売所の名前は、「百笑館」として、「消費者に本当に美味しい地域の農産物を届けて消費者も生産者も笑う」との意味を込めた。
 「百笑館」では利用する生産者から一定の販売手数料を受け取り、そのかわりに利用者は自ら農産物に自由に値段をつけ販売を行った。直売所の運営は、販売手数料に比べ借地料や人件費、事務経費などが大きく、開店から3年間は赤字経営であった。しかし、町内の新鮮な農産物を販売していくことにより、徐々に評判が広がり、平成15年には黒字に転じ、軌道に乗せることができた。
(5)山の中の行列店たまごかけご飯専門店「但熊」
 平成18年3月には、農産物直売所「百笑館」に併設して、たまごかけご飯専門店「但熊」を開店した。当該事例は、鶏卵のほかに地域で「米」を毎年約5ha生産している。米作りに適した朝夕の気温の変化や土、豊富な水があり、さらに鶏ふん堆肥を活用することにより自慢の「米」が生産されている。品種は“夢ごごち”としている。
 それまで鶏卵は、「百笑館」と自動販売機でほぼ100%直売を達成していたが、自家米は「百笑館」で全量を販売することはできていなかった。そのため、「百笑館」で自家製の“おにぎり”を販売したが美味しいと一部の固定客ができたものの、販売は伸びなかった。
 そこで、美味しい「卵」、そして毎年絶対の自信を持って生産している「米」を消費者に食べてもらい、「卵」と「米」の本当の美味しさを理解してもらおうと、たまごかけご飯専門店「但熊」の経営に取り組んだ。
 「但熊」で販売するのは、自家産の「米」と「味噌汁」、「お漬物」とし、「卵」はテーブルの上において食べ放題とした。養鶏場による“たまごかけご飯”の提供は、全国で先駆けた取り組みであった。
 開店当初は、なかなか消費者に理解されず、店内は閑散としていたが、新聞やテレビで紹介されたことを機に行列ができるようになり、その後インターネット上などでその卵と米の美味しさが評判を呼びつづけ、遠方からも多くの消費者がくるようになった。
 たまごかけ専門店「但熊」は、平成23年3月に5周年を迎え、年間4万人以上の来客がある。今でも週末になると行列ができている。
 また、「但熊」の集客により、「百笑館」の来場者および売上が4倍以上に伸び、地域の美味しい「卵」と「米」、「農産物」の味を消費者に伝えるといった活動と、地域農業の活性化につながっている。
(6)自家鶏卵によるスイーツ店「但熊弐番館」
 平成22年1月に、さらなる集客の向上を目指し3番目の店舗として「但熊弐番館」をオープンした。「但熊弐番館」は、農場の卵をつかったスイーツの店である。販売する品目は、ロールケーキ、プリン、シュークリーム、シフォンケーキがあり、本年にはカステラ、ドーナッツ、チーズケーキを新たに販売している。「但熊弐番館」では、「百笑館」、「但熊」と同じく、本当に美味しいものを消費者に届けることを第一にしている。また2階にはガラス張りのテラスがあり、美味しいスイーツに加え、360度広がる山の風景を楽しむことができるようになっている。
 スイーツ専門店「但熊弐番館」は、代表の西垣氏がたまごかけご飯専門店の開店以前から夢に描いていたもので、過去に菓子メーカーのカステラの材料として卵を生産していたことから、今度は自らの手で美味しいスイーツとして消費者に届けたいという夢を実現したものである。
 「但熊弐番館」は、開店から半年で、来客数は2万6千人となって、「百笑館」、「但熊」に来る客を取り込みながらも新たな顧客を獲得し、「百笑館」、「但熊」の売上の向上にもつながっている。
(7)農業で地域の活性化を目指す!!
 たまごかけご飯専門店「但熊」は、自ら生産した卵と米をつかった地産地消の“たまごかけご飯”という他に真似できないものを提供することにより、山間の地理的不利を補い、他にかえがたい魅力“無形の価値”を持ち、それがインターネットやテレビ、雑誌などの情報を通じて、遠方からの集客に成功している。
 そして、農産物直売所「百笑館」、たまごかけご飯専門店「但熊」、スイーツ専門店「但熊弐番館」の3店舗がそれぞれが異なる顧客を取り込み、相乗効果をあげ、集客力を向上させている。
 また、平成22年5月には、高さ4mにもおよぶ巨大な熊を真ん中に立て、但熊にくるお客さんを喜ばせている。中は女性用トイレになっている。
 ホームページも開設し、代表の西垣氏によるブログもあり、消費者に情報発信している。
 (株)西垣養鶏場は、鶏卵生産を中心とした農産物の地産地消を展開しており、自己の経営を発展させるとともに、地域の農産物の販売基地と地域の新たな雇用の創出を行い、地域の活性化に大きく貢献している。
写真5 西垣養鶏場の全景 写真6 但熊案内マップ
写真7 行列ができる「但熊」 写真8 「但熊」の“たまごかけご飯”
写真9 株式会社 西垣養鶏場スタッフ 写真10 但熊のシンボル“巨大熊トイレ”
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